どうも鈴木テツです。
先日YouTubeで、総合商社オワコン的な内容の動画を観ました。
題名は「【大学生に告ぐ】総合商社には就職するな」というもので、ある会社の経営者の方が、就職活動をする大学生に総合商社はやめた方がいい、ということを熱く語っていらっしゃいました。
現役の商社マンのぼくとしては、動画を拝見してうなづける部分もありましたが、ちょっと違うんでねーかと思う部分もありましたので、訂正がてら意見を述べさせて頂きたいなと思います。
オワコンの理由①総合商社では専門性は身に付かない。ジェネラリスト向きの会社。将来経営者になりたいような人にはおススメ。
総合商社では専門性は身に付かないから就職するのはやめなさいという主張でした。この内容は、動画の中では以下のような感じで紹介されていました。
総合商社では専門性を得るという一つのことに特価した突き抜けた経験をすることは出来ない。商社はそういった専門的知識は、潤沢なお金で外部コンサルなどを雇う。商社が求めている人材は、ジェネラリスト。だから将来経営者になりたいような人には商社はおススメだが、専門性を得たい、突き抜けた経験を積みたいという人には不向き。
というような感じで紹介されていたのですが、内容自体はまぁうなづけるのですが、いかんせん動画のタイトルが「総合商社には就職するな」という過激な割に「経営者になりたい人にはおススメ」とおっしゃっていたので、思わず「どないやねん!」と突っ込んでしましました。
確かに商社はすぐに専門家や第三者を雇って外部委託しますし、また社内の定期的な人事異動による担当替えも頻繁に行われるので、職人やその道のプロと比較すると、本当の意味での専門性は身に付かないです。10年も20年も同じ事業を担当することは稀で、5年くらいで新しい分野に異動になり、そこでもまた様々な経験を積んでは異動して、立派なジェネラリストになっていきます。
ですが正直に言わせてもらうと、専門性を身に着けたい!と思って総合商社を志望する人ってそもそもいないと思います。実際にぼくが同僚と話したり、これまで何人もの学生のOB訪問を受けたり、面接したりしてきた中で、どうしてもこの事業がしたい!この分野を極めたい!といって総合商社を志望する人って、皆無でした。
だから「学生諸君!専門性を身に付けたいと思うなら、総合商社になんか就職しちゃだめだ!」と強く主張してもそんな学生はいないと思います。専門性を身に付けたい学生は、その分野に特化した会社に行きますので。
では実際に総合商社を入りたい人はどういう志望があるかと言うと、みんな表面上は就活用に作り出したそれらしいことを言いますが、本音の所は何と言うか、ふわふわしていました。というか好奇心旺盛で、一つのものには絞れねぇよ!というのが本音の人達が多い印象です。あれもしてみたい、これもしてみたい、だから総合商社!そんなイメージです。
総合商社は、目玉となる自分達の商品を何も持たないので、真の強みは必然的に「人」ということになります。そして商社が強みとしている「人」の特色は、どんな状況でも臨機応変に対応できる「柔軟性を持つ人」なんですね。
商社の立場ってほんとコロコロ変わって、お客さんにヘコヘコしたり、ときにお客さんからヘコヘコされたり、事業会社の社長になってエヘンと言ったり、事業会社の社長の部下になってエヘンと言われたり、やっぱり事業会社の株主になってエヘンと言い返したりします。
こういった立場に応じて臨機応変に対応できることを、違う言葉で表現すると「ふわふわした人」ということですね。
あまりに稚拙な表現で自分でも絶句してしまいますが、獏っとしたイメージでとらえてもらって、なんとなく解って頂ければ有難い限りです。なんとなく言いたいこと、わかりましたよね?
ちなみに実際に総合商社マンとして、なんとか生きているぼくの例を話しますと、まず就活時の志望動機はまさに「あれもしてみたい、これもしてみたい、決めきれないから総合商社」でした。実際面接でもそう言いました。そして奇跡的に今入社出来ています。
入社時は経理部に配属になり、その後、経営企画部のようなところに異動して戦略立案や業績管理を行った後、営業部隊配属となってトレードに従事し、その後は買収案件の専任になり、実際に買収を行った後はその事業会社管理を行い、現在はまた全然違う分野のトレードと他の買収案件の検討を行っています。
これは割と極端で、入社13年目にして社内でも稀にみるキャリアチェンジの回数だと思いますが、ただひたすらにジェネラリスト街道まっしぐらです。
ぼくはころころキャリアが変わりますので、突き抜けた専門性は全く得ておりませんが、異動のたびに新しい分野の新しい知識を得て、結果、異動する度にその点同士が少しずつつながっていく感じはジェネラリストの醍醐味です。悪くないです。
ちなみに今はお金に携わるか、不動産投資について学びたいなと思っており、なので財務部か不動産部隊に異動したいなと思っております。ジェネラリストは飽きないですよ。
オワコンの理由②若手人材の流出が止まらない。転職サイトへの商社出身の登録者が前年比で4割も増えた。
若手人材も流出しているとのことですが、これも現場の肌感覚としては、思いっきりうなづく内容です。
実際ぼくも同僚に紹介してもらって一度転職サイトに登録して、転職エージェントと面談をして転職先を紹介してもらったこともあります。尚、紹介してもらった数社は、全て年収が下がることになる為、転職はしませんでした。
転職候補先の中には年収が今の半分以下になる先もありましたので、逆に転職活動をして総合商社がいかに恵まれているかを実感した、今となっては古き良き思ひ出です。
ぼくの周りの若手も結構な人数が転職サイトに登録していましたので、転職サイトへの登録者数が前年比4割増というの現場感覚的には納得できます。
社内にとりあえず転職サイトに登録しておこう、というちょっとしたブームもありました。「えっ、お前まだ登録してないの?だっせー」みたいな。
そしてやはり以前に比べて実際に転職して会社を去る人達も増加してきていることを実感します。10年もすると同期入社の1割以上は辞めているかなという印象です。
もともと離職率が低かった業界ですので、全業界の平均的な離職率に比べるとまだまだ低いのかもしれませんが、年々増えているように感じます。ぼくは入社して12年が経過しますが、如実に転職者が多くなってきたなーと思います。
ですが、はっきり言うと別に若者が1割辞めても支障はないです。
そもそも若者には優秀な人がいないからです。というか若者のうちから、その仕事には無くてはならない存在というような優秀な人材はありえません。仕事はそこまで甘くありません。
若手世代内に限っての優劣はありますが、そんな若手世代内での優秀は、ベテラン世代内での優秀と比べると月とスッポンポンです。書き間違いではなく、もう一度言うと月とスッポンポンです。
若手芸人で勢いがあるコンビがいて面白いなーと思っても、やっぱりダウンタウンに比べたら、もうね、次元が違いますよね。
商社も同じです。若手の優秀は、会社全体の中では下の上くらいのレベルです。おっさんみたいなことを言いますが、やはり若いうちは下働きをしながら、上司が客先とサプライヤーの間を渡り歩く様と、社内のマネジメント層の追求をうまく取り回しながら社内政治をさばく姿を見る経験が必要です。
そういった経験を経ていない若者が優秀であることはないと断言出来ます。
とはいえ若手人材の流出は、20年後に会社を支える人材が減るから長い目で見れば、会社の将来性は無いのでは、という反論がありそうですが、ぼく個人の印象としては1割2割ほどが転職で減ろうが、残りの8割、9割の人材で会社は十分支えていけると思っています。
それぐらい優秀な人たちの集まりであり、柔軟性の高い集団だと思っています。1割2割抜けたくらいで廃部になるほどの選手層じゃないっての、って感じです。ほんと優秀なベテランが多いです。
逆に会社には、いわゆる窓際と呼ばれる仕事をせずにいるだけで給料をもらっている人たちも一定数います。社会の公器でもある会社は、よっぽどのことが無い限り人を解雇しません。若いうちから転職していく人たちは、全員が全員将来優秀な人材になる予備軍だったわけではなく、一定数が将来の窓際族の予備軍だった人たちもいるわけです。そういった人達も減ると考えると、悪い話じゃないのかなとも思います。
若い人材が転職していくことは、勿論相対的には望ましいことではありませんが、まだまだ一般的に離職率が低いこと、そもそも転職時点では会社に大穴が空くほどの優秀な人材であるはずがないこと、その穴を埋めるだけの優秀な人が大勢いる充実した組織であること、将来的にも一定数の窓際族という人員の余剰が発生するほどに組織は充実していること、を考えると、若いうちに人材が流出している現状は、そんなに深刻に考える必要はないですね。
これまで「人」関係で商社はオワコンじゃないか、という点に反論させて頂きましたが、次は、人でなくビジネス的な商社オワコン説の内容を紹介します。
オワコンの理由③商社の既存事業の肝である「情報収集能力」が薄れてきている。
成長するには、既存事業を伸ばすか、新規事業を生み出すか、という2択があるわけですが、この既存事業を伸ばせるかという点においても、商社は過去に比べると劣ってきているのだそうです。
商社の既存事業のメインは世界を股に掛けたトレードですが、かつてはグローバルに根を張る商社の各地・各マーケットに関する情報収集能力は高く評価されていましたが、現在はインターネットなどで誰でも情報にアクセスできる為、既存事業の強みである情報収集能力の特異性が薄れてきているというもの。
確かにインターネットの普及で、お客様は直接に世界のマーケット情報を得ることが出来るので商社の存在意義が薄れてきているように思われがちですが、ところがどっこい、最近ではむしろ商社を頼ってきているような気もしています(ぼくが担当している事業の客先の担当者さんだけかもしれませんが、ほんとなんでも聞いてきます。少しはググってくれって内心思います。)
なぜかと言うと、入手できる情報があふれ過ぎているからです。手に入れることが出来る情報は増えましたが、逆に増えすぎてしまった為、あらゆる内容の情報に触れて、結局何を信じればよいかがわからなくなり、我々商社に対して「ほんとのとこ、どうなの?現場はどうなってるの?」というような問い合わせが来ることがあります。
ですので、広く一般的に手に入る情報に関する収集力についてはもはや商社に強みはありませんが、逆に情報が溢れすぎているからこそ、商社の現地派遣員による現場からの1次情報や0次情報には、まだまだ価値があり、商社機能はむしろ復活しつつあると思っています。
オワコンの理由④新規事業の創出力が低下。巨大になり過ぎたゆえに細やかな動きは苦手。
成長するには、既存事業を伸ばすか、新規事業を生み出すか、という2択だった場合に、この新規事業を生み出せるかという点においても、商社は過去に比べると劣っているとのことです。
そもそも商社はゼロから1にする事が苦手な上に、組織が巨大になりすぎてしまったことで、新しい事業をくみ上げるようなきめ細かい動きが出来なくなってしまったとかそういった説明でした。
う~ん、、これは全くの大きな誤解で、語弊を恐れず言うと商社は新規事業を生み出したことなんて、これまでただの一度も無いと思っています。だから創出力が低下とかうんぬんじゃなくて、そもそも低下するような創出力は一切ありません。
我々が持っているのは、お金です。
そのお金によるバイイングパワーです。
我々は新しいビジネスを創るのではなく、新しいビジネスをやっている会社を探してきて、よさそう!と思ったら、徹底的に調べて実際よさそうだったら丸ごと買っちゃいます。丸飲みです。
総合商社の強みはバイイングパワーであるということは、元商社マンの漫画家 小田ビンチさんの「商社マンは今日も踊る」という作品でも紹介されています。ちなみに、これ商社マンの悲哀がリアルに描かれていて商社志望の人は必読書です。
そのエピソードは、新規トレードの開拓先を小田ビンチさんが所属する専門商社と、ある総合商社が競いあっていた時のこと。小田ビンチさんは何度も何度も相手先を訪問して接待もして、粘り強い交渉を続けて、総合商社に先んじて取引先との契約にこぎつけたのですが、その後、その取引先は競い合っていた総合商社にそっくりそのまま買収されてしまったという内容です。

商社マンは今日も踊る第1巻 69ページ
ホトトギス的に言うならば、総合商社のスタンスは
「トレードに 応じないなら 買っちゃうよ」ですね。
ですので我々総合商社のスタンスをもっと具体的に言うと、新規事業はどなたかスタートアップの企業さんが生み出して頂いて、その方々が規模を拡大したいからお金が欲しい!と言って頂ければ、是非とも総合商社にお声がけ頂ければサクッと大金を入れさせて頂きますので、かわりと言ってはなんですが弊社のHPには「新規事業開拓しました」と記載させて頂きます、ということですね。
ぼくの会社にも、社内にはいくつも新規事業開発部なるものがあって、ぼくもまだ入社して間もない頃は、新しいビジネスを生み出す部って「すげー!かっけー!入りてぇー!」と思っていましたが、内容は既存事業の延長だったり、新規事業の買収だったりで、「自分達」で0から1を生み出そうというものでは決してないというのが実態ですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。内容にはうなづける部分もあるのですが、ぼく個人の印象としては、そんなちょっとした兆候から簡単に総合商社はオワコンみたいなこと言いますが、我々はそんな華奢な存在じゃなくて、重厚にずっしり構えて横綱相撲を取る存在でっせということです。
またこれまでもそういった時代の変化に合わせて商社も姿・形を変えてきていますので、今もまた社内ベンチャーを立ち上げたり、転職者とのコミュニティを構築したりして、変わろうという動きもあり、まだまだ商社最強説はゆるがないと思っています。
是非とも皆様、今後とも総合商社をごひいきに、宜しくお願い致します。
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